第7章 快走!!FM-7!!
7.8 時分秒プロテクト
ソフトウェアが広く流通すると、不正コピー問題が深刻化します。不正コピーされたソフトウェアは無料で入手できるため、開発・提供会社の収益に悪影響を及ぼします。
パソコン用ゲームソフトなどを安くレンタルする「レンタルソフト」という商売がありました。当時は高田馬場から始まったそうです。今では大手販売店に成長した会社も秋葉原でこの商売からスタートしたそうです。「定価で買って気に入らなければ90%返金」という名目で実質的に10%でレンタルするお店もありましたが、これらは法律違反だった上に不正コピー問題を引き起こしました。
一方で、ソフトウェア会社も「コピープロテクト」をかけて発売します。更にそのコピープロテクトを解除してコピーしてしまうプロテクト解除・コピーツールも沢山出てきました。EXPERT FMやSnakeとかありましたね。いたちごっこが繰り返されていました。汎用的なコピーではなく、特定のソフトをコピーするための追加パッケージなども出てきました。
MB8876A ここでは、フロッピーディスクドライブで使われていた各社のFDC(フロッピーディスクコントローラ)LSIの違いを巧みに利用したプロテクトについて紹介します。FMシリーズは富士通のMB8876AというFDCを採用していましたが、PC-8000シリーズはNECのμPD765というFDCを採用していました。この二つのFDCには面白い違いがありました。MB8876Aでは、アスキーコードで16進数のF5,F6,F7というセクタ番号を指定すると、別の制御コードとして認識されてしまい、正常に書き込みができませんでした。しかしμPD765では、F5,F6,F7というセクタ番号を問題なく使用できました。そのため、FMシリーズでは決して書き込めない(再現できない)データを含むフロッピーディスクを作成することができたのです。これはFMシリーズのプロテクト解除ソフトにとってハードウェア的にコピー不可能なプロテクトだったのです。16進数のF5,F6,F7は当時アスキーコードで「時」「分」「秒」という漢字だけが割り当てられていたコードでした。そのため、「時分秒プロテクト」と呼ばれるようになりました。
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ソフトウェアの不正コピーはあってはなりません。会社だけではなく、コンピュータ業界の成長を妨げるものであると考えています。この記事では私がそのような行為を助長するものではなく、当時技術的にそのようなものがあったということをお伝えするために書きました。